第77回 ポルトガルの運命を決めた、アルジュバロータの戦い

ポルトガルの運命を決めた、アルジュバロータの戦い

[2018.11.27]

『その時歴史は動いた』という歴史番組が、以前NHKで放送されていました。日本の歴史上の出来事の中で重要なものをクローズアップし、その背景を紐解きながら解説していく番組です。歴史を知る一歩として面白く、よく見ていました。そのためか、歴史的建築物を訪れると、ついついどんな人物によって、何のために、どのように使われていたのか、など考えてしまいます。
 
今日は、ポルトガルの歴史の中で正に『その時歴史は動いた』と言える出来事を紹介したいと思います。

それが、アルジュバロータの戦い(Batalha de Aljubarrota)です。

戦いの舞台になった場所はまだ存在しています。

この戦いで負けていたら、華やかな大航海時代もその時代に建てられた建造物も、そもそもポルトガルという国が無くなっていたかもしれない、という程大事な出来事でした。
 
600年以上前のことです。当時、ヨーロッパではイギリスとフランスの百年戦争により、不安定な状態が続いていました。そんな中、ポルトガルの王位継承にも問題が発生します。イネスとの愛を誓ったことで有名な王様ペドロ1世の息子、フェルナンド1世(母はペドロ1世の正妻のコンスタンサ)は、ペドロ1世が亡くなった1367年に即位しました。母がカスティーリャ(今のスペイン中部あたり)出身のため、カスティーリャの王位継承権も主張しました。フェルナンド1世は幾度もカスティーリャへ侵攻しましたがいずれも敗北しています。フェルナンド1世に、成人した息子がいなかったことから、彼の死後は娘のベアトリスが王位を継承しますが、カスティーリャ王国との連携を強め更なる力を強めたい母レオノールにより、ベアトリスはカスティーリャ王ファン1世と11歳の時に戦略結婚をすることになります。
 
これにより、ファン1世がポルトガル領土の支配と王位継承を目論み始めます。もちろんポルトガル国内では貴族をはじめ多くの国民がカスティーリャ王国の支配下になることを恐れ嫌っていました。その中で強い支持を集めたのが、若くしてポルトガルの騎士修道会「アヴィス騎士団」の総長を務めていたジョアンでした。彼は、ペドロ1世の息子です。イネスに永遠の愛を誓ったペドロ1世ですが、イネスが殺されてしまった後はテレサ・ロレンソという女性を妾妃にしていました。ジョアンはこのテレサとの間の子供です。
 
フェルナンド1世の娘ベアトリスの王位を認めないポルトガルの貴族たちにより、1385年のコルテス(身分制議会)でジョアン1世としてポルトガル王に選出されました。ここから彼の実力が発揮されることになります。
 
1385年8月14日にカスティーリャ王ファン1世が、北から攻めていることを受け、ジョアン1世と元帥ヌノ・アルヴァレス・ペレイラは、首都リスボンが侵略される前に戦わなければいけないと考えました。そこで戦場として選ばれた地がアルジュバロータです。リスボンから100㎞ほど北上した場所にあります。
 
3万人規模のカスティーリャ王国の軍隊に対し、規模の小さかったジョアン1世の軍隊ですが、小川と急な坂がある戦場で土地の形状を利用した戦略を取ります。真夏の暑い日だったそうです。小回りが利き、動きも少なかったジョアン1世の軍隊だからこそ、大群ながら疲れ果ててしまっていたファン1世の軍隊を追撃し勝利することができました。これが、まさに『その時歴史が動いた』です。
現在も戦場となった場所が残されています。ガイド付きツアーもありポルトガル軍とカスティーリャ軍のそれぞれの戦略を詳しく教えてくれます。
場内地図。ミュージアムもあります。
このアルジュバロータの戦いに勝利することで、ジョアン1世の王位継承は確立され、ポルトガルが繁栄するアヴィス王朝が始まります。大航海時代の幕開けです。
難しいと思われていた戦いに勝利したことをジョアン1世は聖母マリアにとても感謝したと言われています。その気持ちを表すため、聖母マリア修道院を建てることにしました。修道院建設に選んだ場所は「戦い」を意味する「バターリャ」と呼ばれ、現在に至るまでこの町はバターリャとして発展しています。
 

通称バターリャ修道院と呼ばれ親しまれています。大迫力!

この修道院は1386年に着工され、ある程度の形になったのが200年後と言われています。この長い年月の間に、様々な建築様式が用いられていたため、独特な雰囲気のある建築物になっています。
 
なかでも一番目立つのは、大航海時代に発展した海のモチーフを多用したマヌエル様式です。とても凝った造りで、当時の指導者や職人のこだわりを感じずにはいられません。日本でもそうですが、長い年月をかけじっくり造られたもの、限界までこだわった作品は、どんな時代にもそれに触れる人々の心を掴むものだと思います。気を休めることも大切ですが、手を抜かないことも大事ですね。

究極まで凝った細工が素晴らしいマヌエル様式。

さらに、このバターリャ修道院には未完の礼拝堂があります。ジョアン1世の死後、息子のドゥアルテ1世により着手されたようですが、その後、完成することなく未完の礼拝堂として残されています。完成しなかった理由はいくつかあるようですが、リスボンのジェロニモス修道院の建築に国が全勢力をあげたから、とも言われています。
 

今でも未完の礼拝堂。見上げると青空。

カスティーリャ王国がフランスと同盟を組んでいたことから、ジョアン1世はイングランド王族の娘フィリッパと結婚します。当時イングランドとフランスが敵対していたからです。戦略結婚でありながら、夫婦の関係はとても良く、彼らの子供は歴史的偉業を残した人物ばかりでした。有名なエンリケ航海王子もジョアン1世とフィリッパの息子です。フィリッパは教養があり、宮廷の間でも人気者だったそうです。ポルトガルという外国で立派に子供を育て上げ、国政にも通じていたフィリッパ王妃。彼女のモットーは、I'm pleasedでした。何だかとても大きな優しさを感じさせられます。こちらのコラムでも、また別の機会にフィリッパ王妃についてご紹介したいと思います。
 

フィリッパ王妃は、リスボンの観光スポット「発見のモニュメント」に唯一の女性として並んでいます。

ポルトガルの『その時歴史は動いた』、いかがでしたか。
ジョアン1世がアルジュバロータの戦いで勝利することにより、現在のポルトガルの礎を築いたと言っても過言ではありません。こうして歴史を知ると、ポルトガル観光もより楽しくなるはずです!
 
ペドロ1世とイネスが眠るアルコバッサについてはこちら
 
それでは、また次回!
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著者プロフィール

19歳の時にポルトガルに出会いすっかり虜になる。大学卒業後、日本で貿易実務、ロジスティクス、マーケティングの経験を積むが、日本とポルトガルをビジネスで繋ぎたいという気持ちが大きくなり渡ポすることを決意。ポルトガルに1年半留学しMBAを取得。在学中、現地企業やビジネスパーソンとの幅広いコネクションを築く。

現在はポルトガルジュエリーのブランド「フィリグラーナ・コン・アモール(Filigrana com Amor)」を立ち上げ、インポーターとして活動。日本とポルトガルを行き来しながら両国の情報を発信し、人・ビジネス間の交流が活発化するよう邁進中。

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